秋葉原や岩本町から行く方が近いが、わざわざ神田駅で降りて、繁華街や人通りの様子を見ながら、歩いて目的地まで行くことがある。東口を出て、靖国通りまで歩くあいだ、線路下やその向かいのお店の様子を観察する。時世の影響で、どの店もドアを大きく空け放しているので、店内の様子がよく見える。六月に入って、どの店もそれなりに賑わっているようだ。平日でこれだけ人がいるなら、週末が近づけばもっと増えることだろうと思う。二人や三人連れで、店を見回しながら歩いてる人達が、呼び込みから声をかけられている。もう閉店してしまったのだろう店や、最近開店したのだろうと思われる店もある。

呑み客の多さだけで言えば、横浜や桜木町はまったく大したことなくて、神田や秋葉原、それに新橋とかで呑んでる人々の数とはまるで比較にならない。

先月のまだ辺り一帯が閑散としていた時期に、野毛のある店の店主が、まるでちょっと昔の元々の野毛に戻ったみたいだと言っていた。今は賑わってるのが当たり前だけど、昔は良くも悪くももっと殺伐としてたっていうか、入りにくい店も多かったし、怪しい酔っ払いが道で寝てたり、今はそんなこと無いけど、野毛に限らず飲み屋街って元々そうだったでしょうと。

神田のガード下に連なるお店を見やりながら、やがて靖国通りが近づいてくると、急激にネオンの光が減りはじめて、夜の明るさが翳りはじめて、すでに繁華街を抜けつつあることがわかる。お祭りの広場から離れていくときのもの寂しさに似た思いがかすかに胸に浮かぶ。

お祭りの広場みたいな繁華街もあれば、昔ながらのちょっと怖い繁華街もあって、後者はどんどん少なくなってきている。繁華街の怖さというものがあり、たぶん酒を出す店が本来もっている怖さというものがあったのだろう。それは異世界であり、別ルールに基づいた営みが積み重なっており、強い排他性が効いており、一度足を踏み入れてしまうと無事で済む保証はないような、そこへ訪れること自体が危険な賭けだったはずの場所だ。(いわゆるぼったくり系の店のことではなくて、もっと目的から存在から不明瞭ながら人の形作った場が成り立ってる、第三者には謎としか思えないような場所のこと。)