Out to Lunch!

ジャズにおけるアドリブと呼ばれるあの入れ物の中身、あの許容範囲、あの限られた自由、あのしきたり、あの追従、あの礼賛、あの服従。うつわと、その中身。どうしてもその枠組でしかない、そのあきらめから始まる。そのことへの屈服からはじまる。もし今のあなたが、たくましくて、すこやかで、たのもしい存在として、私にとって輝かしくみえるとしたら、それはあなたがすでに去勢されているからで、もはやあなたがすでに今、ここにいないからだ。いつそんな約束事を取り決めたのか、いつ仲間たちと合意にいたったのか、頼りにできる誰かがいたのか、私に断りもなくなぜあなたはすでにそんなに。Hat and Beardで力強く、あなたはすでに出発したあとだった。あらかじめ充分な活力と気力と体力を蓄えているのがわかった。いまさら何を言っても、どうせ聞きはしないだろうとそれでわかった。でも少しだけ余裕を見せて、あなたははじめからフルスロットルで攻めなかったのね。まるで新築の部屋を満足げに観察するかのごとく、四方の壁をためしにそっとノックして、反響音を聴いたうえで前日から用意していた材料をはじめてその場にひろげた。Something Sweet, Something Tenderで充分に手足を伸ばした、それだけリラックスできるだけの、大きな浴槽を準備してたということですね。Out to LunchとStraight Up and Downで、もはやあなたは自信に満ち溢れて、自分の建てた家に対する満足感を心ゆくまで満喫している。おもしろいのは、その満足ですよね。私は冷笑的な態度で、あなたを不愉快な気分にしないではいられない。あなたが私にその役割を押し付けたんだから、私はあなたにはめられたんだから、いやでもそんな態度を取らないわけにはいかない。あなたがどれだけ生き生きと、水を得た魚のようにその部屋のなかで跳ねても、私はその入れ物、その許容範囲、そのしきたりについて何度でも言い募り思い出させるだろう。あなたは自由じゃない、あなたは自由じゃない、毎朝八時に駅前でそれをくりかえすことだろう。