下請派


戦後の日本における経済復興について、特に製造業の発展・急成長が目覚しいものだったのだろうが、ではなぜそのような成長が可能であったのだろうか?アメリカ傘下だからよかったとか官僚や政治家や企業の上層部が偉かったとか、その辺良くわからないのだが、それでも実際、日本で「下請け」と呼ばれる人々の優秀さっていうのも、ものすごいものなのだろう。たぶん日本人が下請けするときの下請け精神というのは、世界的にみても類が無いほど、ものすごい下請け最強野郎なのではないか。とにかく、全体の一部になって歯車としての役割を果たすことにかけては、圧倒的な能力を発揮するのが我々日本人なのである。雇われ根性の極北というか、お客様が居てこそ存在を許されております私たちというか…思えば戦争だってそうだった。兵隊は命令とあらば虫けらのように死ぬことも受容する。世界のどこを探しても、そんな兵隊いませんよ?ってな話である。(中東で行われている自爆テロはどうなのか?については今上手く考えがまとまらずわからない。)とりあえず今、日本人に生まれて、なんだかんだいっても世界的にみてもかなり裕福な(少なくとも近日中に生命が危ぶまれるような事はあまり無い)最低限度の暮らしを大方の人が実現できていて、情報も普通以上に入ってくる「先進国」の国民でいられるのは過去の時代の人々のおかげでもあるのだろうけど…


重油や鉄屑に塗れながら、少しでも良い部品を作って納品しよう。それで明日の暮らしとかを打ち立てていこう。と思ってる人間の営みだったり、本土で待つ家族や沢山の人々のために、たとえ体が砕けようとも一刻も早く迫り来る敵に突撃したいと思う兵隊の思いだったり、そういうのについて考えるのは、感傷を押し殺した場合、やはり「ちょっと理解を越える」という意見を呼び寄せる事もあるだろう。いや人間はもっとワガママ勝手でいいんだ。逆にそうじゃないと駄目だ。ワガママ勝手に人生を生きる事自体のリスクを引き受けることこそ、人間らしい生き方なんだ!っていう考え方もあるのかもしれない。


…まあ、それはともかく、やがて経済成長が促され、全体が裕福になって行って、高度資本主義的なシステムが回転数を上げて行き、さまざまなイメージが欲望としてその輪郭をくっきりとさせて人々を翻弄していくのだろうが、そんな過程の行き着いた所で、日本人がある一時期、一時的に実現させたのかもしれない(?)表象のユートピアというのは、もともと下請け精神の権化であった特性をもつ我々だからこそ実現できた、無表情に黙々と消費する恐ろしく安定した不気味なほど静かな人々で構成されたユートピアではなかったろうか。(なんて、見たことも無い癖に書きますが)


などという事をなぜ思ったのかというと、どこかのサイトで東京ラブストーリーについて「都心のでかいマンションに住んで、冷蔵庫にはバド缶が入っていて、休日はジグゾーパズルなんかをしてるような、如何にもバブル下の当時イメージされていた暮らしの感じ。」といった感じの表現があって、その「休日にジグソーパズル」というところに、なぜか衝撃を受けてしまったからであった。休日にジグゾーパズルをするという、あまりの不毛性というか、これほどはっきりと「早く休日が終わればいい。早く人生が終わればいい」と感じさせるようなしぐさもないだろ?というか、まあ考えすぎですけど、なぜだかそんな風に思った。だって…ジグソーが欠けてることから忘れられてた物語が駆動してどうこうとか…もう絶対零度の世界としか言い様が無い。。…でももしかしたら、そういうのが実現されてしまう下地にも、やはり「下請け」としての精神が息づいてはいないだろうか?と妄想は膨らむのである。


美術に関しても、仮に「表現主義」的な傾向が日本の美術に根強く残ってるとしたら、その理由っていうのもやっぱり、日本人の大多数が下請けだからだろうか?とか思った。表現主義っていうか、表現しようとする人のモティベーションの中心にあるのは、与えられた情況の中で蠢く「私」を、別の視点で俯瞰して、それをイメージに焼き付ける…みたいな、そういうところがあるように感じる。この状況下で生きている自分というのを、肯定でも否定でもなく見つめているという…その振る舞い自体がひとつのクリシェなのだろうが、下請けたる日本人が、取り急ぎ美術をやる振る舞いとして最適なやり方なのかもしれない。というか、いきなり自分が「美術!」と言い出す事の唐突さに対して、何らかのを緩衝材のように、それが必要とされたのだろうか。(戦後の日本の画家は一時期、感覚として、アメリカの抽象表現主義よりは、フランスのアンフォルメルをより好意的に受け入れたようなところがある。これもアンフォルメルの方が、より強く個人の表現性を打ち出すのに適したように見えたからだろう。)


まあこの文全体の「日本人は…」を「僕は…」に置き換えても良いのかもしれないが…。