稲荷~浅草~曳舟

とくに目的もなく出かける。根津で降りて、上野高校を迂回して上野公園を通り抜けて広小路方面まで歩く。上野ツタヤが来週ついに閉店だと知る。ならばこの店に来るのもおそらく今日で最後か。既にガランと寂しい空の棚のむき出しになった薄暗い店内を一瞥する。このあと不忍方面に行くのも(数日前と同じで)つまらないので東上野方面へ歩き出す。天気は上々で散歩には格好の塩梅だ。下谷神社、東本願寺などを経てかっぱ橋の商店街などもひやかしつつ浅草まで歩く。なるべく細い道を通って歩こうとした。道幅が狭まるほど路地特有の匂いが立ちこめ、昔からやっているお店のすぐ脇に古びた花壇があって、名前はよく知らないような緑色の草花が、吹き出すように茂っていて、やがて迫りくるだろう夕闇の濃さが勢いを増せば、そのあたり一帯に含まれる湿度のなかに、植物の目に見えない活発さのようなものが、少しずつ溶け込んでいる。かっぱ橋は面白い。食器や何かを見ているのも面白いのだけど、お店で必要なメニュー立てとか、看板とか、おでんとかホッピーとか酒とか書いてある大小の提灯とか、屋号の書いてあるのれんとか、持ち帰り用の容器とか、お店を構成している各種部品の物質感がすごくて面白い。駒形橋を渡って、アサヒ本社の馬鹿な社屋とその向こうに立つ馬鹿なでかい鉄塔を見ながら、隅田川沿いを歩く、ひたすら歩いて歩いて、途中で妻が買いたがった言問団子を買って、曳舟駅まで歩いてようやく帰路につく。よく歩きました。

シャッフルで聴いていたら、如何にもなギターストロークで曲が始まったので、一瞬ボブ・ディランの曲が掛かったと思ったら、ヴェルベット・アンダーグラウンドの"Run Run Run"のライブ録音だった。そうか…そんな聴き間違いが可能なのか…と思った。

そもそも朝の時点で、今日で連休の何日目なのか忘れたけど、これだけ何日も休みが続く経験はあまりないので、まず戸惑うのは朝食の習慣に対してだ。僕は通常、平日は一日二食で朝食は取らず、土日祝日は朝昼兼と夜でやはり二食で、平日の昼は前日夜残りをメインで構成されたお弁当で休日はトーストとたまごを炒めたものとコーヒーとあれば少し果物だが、今日のように連日休日が続くとひたすらトーストと玉子ばかりになって、それはさすがに三日目くらいで飽きてくるので、実にめずらしいことなのだが、こうなるとたまには、ということで、朝食にごはんとお味噌汁と何か一品二品、的なことになったりする。そういうチャンスだとここぞとばかりに旅館の朝食みたいな献立にしたくなって、納豆とか海苔とか焼き鮭とか玉子とかが、たくさん並ぶことになる。ごはんもはりきって炊くので、そんなに食わねえよと言わんばかり、そういう節度を知らない新米の女中が盛りつけたみたいな分量の米が、お茶碗にいっぱいにこれでもかとばかりによそわれている。どう考えても食べすぎだろうというほどの量だが仕方がない、連休なのだから、ということで食べて食べて、結果わりと簡単にぺろっと食べ終えてしまう。で、こんな満腹のまま家の中でだらだらしてたら大変なことになるから、というので、じゃあどこかへ行こうかという話になって、とくに目的もなく出かけましょうということで、冒頭に戻るわけだ。