循環

午後八時過ぎ、夜道を歩いていると、ふわっと湿気を伴った空気が生暖かくて、二月のこの時期の外気が暖かいはずがないのだが、昨日までの肌を刺すような厳しい冷気とはまるで質の異なる空気で、寒くないのは助かるけど、これはこれで、やがてまた今とは異なる別の季節が来るということだなと思う。夏の日々を過ごしていると、半年後には冷気で身体が芯から凍るような日々を送ることになるのが信じられないし、冬の只中にいると、やがて桜が咲いて散って、じょじょに気温が上がり太陽が電熱器のように照り始めてほんの少し動いただけで衣類の内側に汗が滲むような毎日が来るのだということが信じられない。それを言ったら、一年後にはまた今と同じような冬の只中にいるはずだが、それも本来おどろくべきことだ。今年も来年も再来年もくりかえすだなんて、いったい何がそうさせるのか、くりかえしているということ自体が、人の手には負えない巨大な不気味さのように感じられることがある。

沈丁花は今年も少しずつ花弁がふくらみはじめて、冬に漂う馥郁としたこの香り、ああこの季節ですねえ…という感じ。しばし立ち止まりて深呼吸し肺腑に冷たい空気を取り入れる。