2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

赤西蠣太

志賀直哉の短編「赤西蠣太」を読んでいた。赤西蠣太という風采の上がらない、パッとしたところのない武士と、銀鮫鱒次郎という、蠣太とはまた反対の性格と外貌をもつ武士がいて、しかし二人はなぜか仲良しで、しかも二人して何やら内密の文書を作っているら…

わがままロマンサー

文學界12月号の、鴻池留衣「わがままロマンサー」を読みはじめて、最初のうちは、これはどうなのか、ちょっといくらなんでも、あまりにもひどくないか、自分的には、苦手な部類に該当するやつではないか…と、やや警戒もしつつ、谷崎的な畳みかけるように羅列…

甘味

甘いものが子供の頃からそれほどは好きではなかった、とまで言うと大げさで、人並みに好きではあっただろう。でも甘納豆とか、マロングラッセとか、熟柿とか、ああいったものが苦手だった。あれらはほとんど、耐え難いようなものだった。今ならまだ許容でき…

落ちる

この欄干はいつも低すぎると、自分の身長の半分以下しかないじゃないかと、千住新橋の上から荒川を見下ろすときにいつも思う。今とんでもなく危険な場所にいるのだと思って背筋に悪寒が走る。しかしここに来ると毎回、川は見下ろしたい。見たさと見たくなさ…

推し燃ゆ

「推し燃ゆ」読了。冒頭「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない。何ひとつわかっていないにもかかわらず、それは一晩で急速に炎上した」・・・という魅惑的な出だしから最後まで、的確という言葉を先日は使ったが、的確で…

宮本(映画)

真利子哲也「宮本から君へ」(2019年)を観る。ドラマ版とはがらっと演出方針を変えて、笑いやユルい要素はほぼ排除されて、愛する女を守り自尊心を取り戻すため決死の復讐に挑むみたいな、血圧高めな任侠世界全開の映画になってた。こりゃあかん僕がダメなヤ…

的確

宇佐美りん「推し燃ゆ」を半分くらいまで読んだ。小説的な的確さ。読み手に何事かを説明していくのがものすごく上手い。伝えようとするところが過不足なくきれいに伝わってくる、その心地よいくりかえしでスムーズに小説の世界がひらかれ展開していく。何か…

宮本(ドラマ)

ドラマ「宮本から君へ」(真利子哲也 2018年)全12話を見る。かなりよそ見しながらの「ながら見」で、あまりきちんと見ていたとは言えないが。独善的な自分ルールで自分自身をがんじがらめに縛って、仕事や恋愛で周囲を巻き込みつつ大騒ぎして、何しろ本人にと…

文学論

雪になるかもしれないとのこと。外は雨だが、この寒さならありえる。一日中在宅。窓際のカーテンの隙間から冷気がしのびこんでくるような一日。 作品は、それがすぐれているとはどういうことか。いつかどこかで聞いた話だけれども、フランスにとって、セザン…

悪魔のいけにえ

テレビのチャンネルを順に移動してたらたまたまやっていた、トビー・フーパー「悪魔のいけにえ」(1974年)を、気の進まないまま、なんとなく見始めてしまう。最初のいけにえになる彼と、彼女が吊るされるシーンまで見て、案の定深く気が落ち込み、いったんボ…

カテゴリーの内側

先日、本棚の大棚卸をやって、奥から出てきた古い本のなかの一冊「男流文学論」(上野千鶴子、富岡多恵子、小倉千加子)を読んでたら面白い。今読むと、過激とか下品とかの印象はあまり受けず、むしろかなりまっとうな内容に感じるところが多い。とくに三島由…

ルッコラ

家に長らく放置されていた水栽培用の器があって、そのまま置物みたいにしてても意味ないし、久々にバジルでも育ててみようかと思ったのだが、バジルの種がどこにも売ってない。種は各種あってもバジルだけはなくて、もしかして今この時期にバジルなんて、季…

気温もさることながら、直に肌に触れる刃物のような風の冷たさが、心底堪える。この冬の、容赦のなさよ。膝から下の感覚がなくなって、体温がみるみるうちに下の地面へ逃げていくかのような、不安をともなうかのような寒さ。夜の駅前を行き交う人々は誰もが…

絆創膏

だから、あわてて鞄に手を突っ込んで何かをまさぐったりすると、それで引っ掛けた爪の先が割れたりするから気を付けろと以前自分に言い聞かせたのに、そんなことはすっかり忘れていたのだ。兆候はあった。数日前に中途半端に割れたのを、爪切りで除去して、…

取り掛かり

たとえば絵を描くときに、最初は大きなアタリをつけるために、下書き線で画面に対する形の入り方や大まかなトーンや余白とのバランスを取って、画面内の構築感と、大まかな動きや流れの行方を検討付けて、ある程度の設計が決まったら、つぎに描きこみをして…

5時から7時までのクレオ

北千住の東京芸術センター・シネマブルースタジオで、アニエス・ヴァルダ「5時から7時までのクレオ」を観た。一九六〇年頃のパリ、その景色に強く惹きつけられた。パリを撮った「世界ふれあい街歩き」の、伝説的な最強の回を観たという感じだ。 夏至の明るさ…

BBA

ベーシストのティム・ボガートが亡くなったらしい。ベック、ボガート&アピスのライブ盤は、たぶん二十歳前後の自分が、最もくりかえし聴いたハードロックのレコードだろう。「迷信」という曲は、僕の場合、スティービー・ワンダーではなくてジェフ・ベック…

昔は、きたない料理屋の、奥の狭い部屋の染みだらけの壁に寄りかかって、一升瓶に半分ほどの酒と、素朴で質素な肴で、地味でさえない芸者まで呼んで、そんな侘しい宴会を、若者二人でやったのだろうな…と思った。庄野潤三「山の上の家」という本に収録されて…

要請

去年の緊急事態宣言発令のときも、飲食店の営業時間短縮要請は今回と同じ八時リミットで、あの時期も繁華街は閑散としたものだったけれども、それでも去年はまだ、要請にしたがわずに開けている店も少しは見かけたし、閉めるにしてもわりとユルめというか、…

茶わん

骨董を見るというのは、本物と偽物を見分けるということでもあるけど、どちらも本物であるときの、その良さの段階を見分けることでもあり、そちらのほうが難しいと。見ているそれが、それが「良い」ときに、これまでの過去に、この器は今と同じように誰かに…

瀬戸物

江藤 そういうふうに「もと(傍点)」の方から、土のほうから解きほぐしていく見方で見るというのは、どういうことなんですか。 小林 だいたい、ものに親しんでいると自然にそうなるのですね。たとえば瀬戸物なら瀬戸物は、目につきやすい絵付けがはじめにパッ…

間隙

朝起きたら、ひどい筋肉痛で愕然とする。なんたることか、あれだけ水泳だの何だの、運動のことばかり気にするくせに、本棚つくって一日掃除しただけでこれかと。 しかも、昨日までは比較的良好だった鼻の状態が今日はアレルギー性鼻炎の典型的症状が発症して…

組立

本棚を組み立てる。でかくて重くて、それなりに苦戦するも、正午あたりに何とか完成させる。続けて本の選別・移動・収納の作業へ移行する。結果的に、家中にあるすべての本がほぼもれなく確認対象となった。総監督は妻で、自分はきのうまで本の山だった場所…

本棚

本棚を買った。これで部屋内の四方に積まれた本を一気に片付けようという目論見。一つで足りなければ二つ買ってもいい。部屋は狭くなるけどそれはそれで仕方ない。というかあちこちにある本の山をこのまま放置するよりは、一部屋を本棚部屋にしてしまって構…

鍋物の美味しい季節でございます。鍋は簡単だし冬の食事としてとても満足感が高い。正直、この時期なら毎晩鍋でも嫌ではない。 スーパーには鍋に入れる出汁スープが各種並んでいる。あれはあれで、たいへんよく出来ていて、野菜だの肉だの魚だのを適当に入れ…

養護教諭

女子とくらべると男子は身体の成長推移が遅いとはいえ、中学校入学から卒業までに起こる変化は個人差はあれ決して小さなものではない。 中学一年生から三年生までのあいだに身長が何センチ伸びたのかは忘れたが、それなりに人並みには伸びたわけで、変化率と…

音楽の時間

六十年代前後に活躍した往年のロックバンドによる長尺の即興演奏がとても好きで、自分が高校生だった八十年代後半、その時点で既に十分古臭かったそれらのレコードばかりを集めては聴いていたのだが、何がそれほど良かったのかといえば、各楽器の、音と音が…

苦しみ

先日観た「淵に立つ」(2016年)について、いくつかのことを思い返していた。(以下ネタバレ) ある男と、そしてお互いに対して、夫と妻がそれぞれの負い目や引け目を心に隠し持っている。夫は過去に男が犯した殺人の共犯者だったが、男がそれを黙っていたため罪…

さようなら

深田晃司「さようなら」(2015年)を観る。原発の大規模事故によって実質的に滅びてしまった近未来の日本という設定。国民は受入れ先の他各国へ順次移民されるが、要人をはじめとして経済力や肩書その他の条件により移送民に選別される優先度は異なるらしい…

墨田・荒川

自宅から散歩。最寄り駅を過ぎてひたすら南下すると、ほどなくして葛飾区へ入る。川面が光を強く反射して眩しいのを堪えながら荒川に沿って進み、堀切橋を渡って、いつもの千住柳橋方面ではなくて、鐘ヶ淵方面へ向かう。背の低い家々がぐしゃっと寄り集まっ…